魅惑の瞳
コツ、コツ。響く靴音に、微かな呟きを玲於奈は聞いた。
眼を閉じ、昇は自らの精神を研ぐ。
「……意思は、式の源! ……式の、理は解! ……我を生かすも、殺すも、意思一つなり!」
裂帛の叫びが昇の口から迸り、左手に宿された『魔封じの刻印』が動く。
「なっ!」
驚きに小さな叫びを洩らし、玲於奈は『魅惑の瞳』の魔力を活性化させる。紫紺の瞳が輝きを一層強めるが、
「我に定められしは絶対の式、汝に添えられしは伽藍の理。ここに汝の敗北は必定なり!」
昇の左手が赤光をまとい、逆五芒星を描くのと同時に空間を揺さぶるような衝撃が両者の間に走った。発動した『魔封じの刻印』の力により、玲於奈の『魅惑の瞳』の力を無効化した残骸。その衝撃に対して昇は根を張った大木のように両足を踏ん張り、玲於奈はローブを宙で翻して退く。
昇の左手からはダラダラと大量の鮮血が流れ、床を赤い池と化している。『魅惑の瞳』に捕らわれながらも、意思力だけで『刻印』を無理矢理行使した代償がこれだ。
(次、あれに捕えられたら、もう逆らえ切れねえな)
そうなれば、間違い無く死ぬ。『魅惑の瞳』に捕えられぬよう、昇は『刻印』を眼元にかざしつつ玲於奈を見る。
事情は、わかった。
同情は、する。
だからと言って殺されてやる程、自分はお人好しではない。正義のヒーローでもないのに、自己犠牲の精神など真っ平ごめんだ!
自分に出来る事を為せ。