思念具現
昇を睨むように玲於奈の瞳が開かれた。氷が障壁ごと砕け散り、闇を奔る。昇に降り注ぐ氷塊は、
「ちっ!」
舌打ちと共に『刻印』の灯火が、赤い軌跡を縦横無尽に描く。全ての式を解く赤光は、欠片一つ残さず氷塊を蒸発……否、消滅させている。紅手が最後の氷塊に対し真横に一閃されると、
「『思念具現化』かよ……どうりで詠唱がねえはずだ」
ぼそりと呟く。
『魔術』を現界に現す方程式は幾通りかある。
手順を踏んだ方程式の一種、『詠唱』は自己を陶酔させ、自身に眠る『魔力』を活性化させる。そして『魔力』を形にする『精神集中』があって、はじめて『魔術』は成立する。どれ一つ欠けても、魔術は扱えない。
本来ならば。
だが玲於奈が行使している『思念具現化』は『精神集中』のみで現界に影響を与える。つまり、彼女には方程式である『詠唱』や『印』、『ルーン』が不要なのだ。『吸血鬼』という『魔術方程式』そのものが触媒であるからこそ可能な業。
確かに、厄介ではある……が、
「結局は、魔術。そこに式と解が在るなら、全て封じてみせる」
その特異な式は、もう見極めた。それを見極めるためだけに、わざわざ呪符を媒体とした不慣れな攻撃魔術を使用したのだ。ある程度の威力を引き出すために、長ったらしい詠唱までして。
呪符をナイフに巻き、魔力をナイフに刻まれた方程式に挿入。刃が赤い光に包まれると呪符が虚空に消え去る。そして、もう一方の手には呪符を再度握り、昇は呪文を唱えながら疾走。
「大気を司りし者よ、我が声に耳を傾けよ。赤き力を用いて世界を揺り動かせ!」