三日月の絆その5

真っ赤な嘘

真っ赤な嘘

「いえ……考えていたよりも貴方が強く、肝を冷やしましたが……ふふふ」

彼が両手に持つルーンソードの一本は真っ二つに折れ、もう一本にも無数のヒビが入っている。もはやまともに使える物ではない。

「ようやく、仕込みが終わったので、笑っているのですよ、『ミス・シャドウ・オブ・デス』」

『死影』を英語読みする辺り、すでにない余裕を見せつけ、また時間を稼ごうという算段か。

「もう、その手には乗らないわよ。確実に殺してあげるわ」

ジャリ、と死影は一歩を踏み出す。

しかし、どういう事か彼女の歩みが止まった。字久を見つめる彼女の視線は、彼の足元や周囲に注がれ、

「言ったでしょう。仕込みは、もう、終わった、と」

スッ、と細まる字久の双眸。

同時に、『死影』が息を呑んだ。

「こ、これは……!」

「苦労しました。貴方に気取られぬよう、わざとナイフを受けて傷をつくり、私自身の血を用いてグラウンド全体にルーンを施すのは。体の内側に魔力が注がれた時は本当に危なかったですがね」

普段の軽薄な口調ではない。

揺るぎない、絶対の自信を持った男の声。

「……じゃあ、司影ごと私を消すと言ったのは」

「真っ赤な嘘、大見得切ったハッタリ、と言う訳です。第一、後輩思いの私が彼女を殺せる訳がないでしょう? まあ昇君には男は殺せても女が殺せないだけだろうと言われそうですが。ああ、貴方に私の返り血を浴びせるために、『反照方程式』が用いやすい同じ型の詠唱をわざと繰り返していたのは言うまでもありません。こう見えても私は、『陰陽寮』に属する魔術師の一人ですよ?」

ギリ、と『死影』はナイフを一層強く握る。

「でも、『人格統合方程式』は」

「見付かりませんでした。ですが、太古の叡智と言われるルーンには様々なものがありましてね。例えば、『魔なるものを封印するルーン』なんていう、便利なものもね。『魔封じの刻印』のもとはこのルーンだという説があるくらいですから、威力はお墨付きです」