逃走
両肩を竦め、淡々と語る字久。
しかし『死影』は、
「……くくくく……ははははっ! してやられたわっ!」
鉛色の夜空に向かって哄笑し、
「でも、やはり詰めが甘い! 話を長引かせすぎたわね!」
左手を胸の前で素早く組み替え、九字とは違う何かしらの印を象る。
「冥界より来たれ、暗黒の亡者よ。滅の波動を伴い、我が指し示す方位を駆逐せよ!」
叫び、ナイフを握った右手を字久に向ける。が、
「ああ、言い忘れていました。私がこの場に施したルーンは二種類。詠唱に組み込まれた方程式をルーンによって相殺する結界も張って置いたのです。ここでは私以外、もしくは圧倒的に私の魔力を上回る者以外は、詠唱及び印、ルーンによって方程式を挿入し魔力を反応させる事は不可能。つまり魔術は使えません。仮面を外すといつもの私に戻ってしまい例え敵であろうともペラペラ喋ってしまうのはわかりきっているのでこのような手段を取らせて貰いました。
まあそれは嘘で、逃げの一手を打たれてはこちらとしては非常にやりにくく、万一逃走されでもしたら、それこそ元も子もない、というのが本音だったのですが」
『死影』の魔術は発動せず、場に変化は何も訪れない。
「この結界もあと一分程で切れてしまいます。それではこれで失礼させて頂きましょう