三日月の絆その5

苦しんで

苦しんで

だが。

苦しみを見せてはいけない。

その何倍もの苦しみを、彼女は背負うのだから。

悲鳴をあげてはいけない。

その声を、彼女の鼓膜に焼き付けないように。

覚悟を決め、最後の瞬間を昇は待つ。

『死影』の事が気懸かりだが、瑞樹がどうにかしてくれるはずだ。何だかんだ言っても、義妹の優しさを自分は知っている。

字久は自分が死んだら泣くだろうか? いや、案外ペラペラと自分の悪態をつきまくっていそうだ。あるいは自棄を起こして女性を引っ掛けまくるかも。

司影は……多分、荒れるな……いや、喧嘩相手がいなくなって、逆に少々大人しくなるかもしれない。

そんな事を考えていると。

カシャン、と廊下に一つの音が、足元から響いた。

 同時に、体に自由が戻ってくる。

「……どうして、そんな顔が出来るの?」

青い瞳が、濡れていた。

「どうしてそんな穏やかな顔が出来るの?! 死は怖くないと言うの?! 私が憎くはないの?!」

内に秘めていた感情が昇に叩き付けられる。

「どうして私を罵倒しないの?! 貴方の命を略奪しようとしたのよ?! どうして貴方が謝るのよ!」

「……先輩は、悪くないだろ」

泣き腫らした顔をじっと見つめ、

「そんなに苦しんで……そんなに自分を傷付けて……そんな人を、どうして責められるんです? もう、いいでしょう? 自分を、許してあげましょうよ?」

 出来る限り穏やかな声を出す。

 玲於奈は起き上がり、無言で昇の胸を叩き始めた