行使者
右腕を刺し貫かれた。焼けるような痛みが刺された上腕部を中心に走る。勢いよく出た血液が『死影』の体に掛かるのと時同じくして、魔術方程式が組み込まれたナイフから回復を遅らせるよう、魔力が字久に発せられる。法衣に施されたルーンの防御壁は容易く破られ、体内に異種の魔力が送り込まれた顔には筆舌し難い苦痛の色が浮かんでいる。さらに物理的なダメージを加えるため、ナイフが刺された肉ごと捻られる。
流される『死影』の魔力と腕から滴り落ちる出血には構わず、左手に握ったルーンソードでこれ以上の追撃を防ごうと斬撃を放つが、『死影』は軽やかな跳躍でそれを呆気なくかわしている。
黒き堕天使がグラウンドに舞い降りると、字久は右腕を押さえ地に片膝を突いた。
「字久さん。貴方は確かに強い。でも源流が同じ型の詠唱を何度も使っていたら、簡単に方程式が解かれてしまうわよ」
それに対し、『死影』は涼やかな声で敵の苦痛を賛美する。
「……反照方程式が使えるとは、誤算ですね」
肩を上下させながら字久は息を整える。その顔色は青く、脂汗がいくつも額に浮かんでいる。
解かれた方程式は、すでに行使者の支配下には置けない。『反照方程式』は『解体方程式』よりも、さらに高度な魔術。『解体方程式』のように方程式を解くだけではなく、より深く探る事で力のベクトルを支配し、行使者を追撃する。