三日月の絆その5

三日月

三日月

「口では何だかんだ言っても、やはり甘いようね。昇君の事が気になって勝負を急いでいるわよ」

「……ご忠告、感謝致しますよ、『死影』さん」

だが青い顔でなお字久は余裕の笑みを浮かべ、ゆっくりとふらつく足取りで立ち上がる。これには『死影』も怪訝そうに、

「随分余裕じゃない?」

探りを入れるために嘲るように問う。

「……いえいえ、私には『正義は必ず悪に勝つ』、という世界共通の不文律がありますからね。神様は私の味方、という訳ですよ」

そう言うが否や、字久は自らの剣を右腕に走らせる。閃く銀光は鮮やかな切り口で、ナイフの傷口周辺に不可解な文字を象った。

すると、字久の顔色が少しずつ回復してきた。青からほんのりと赤い血色に緩やかに変わっていく。

「……中々図太い神経しているじゃない。会話している最中に自分の体に回復用のルーンを使うなんて」

なんの事はない。字久はただ自分に探りをいれさせるためだけに、全く無い余裕を演じただけだ。自らの状態を少しでも安定させるために。確かにしてやられたが、やはり彼は相当消耗しているのだ。

その証拠に、体内に挿入された魔力は少しずつ浄化しているようだが、ナイフで穿たれた傷は依然、鮮やかな緋を流しつづけている。

『死影』は狂ったように、空に浮かぶ孤独な三日月に向かって哄笑する。

「そろそろ飽きてきたし、殺してあげるわ、字久さん!」

字久が消耗しているという事実は彼女に追撃を決断させた。

駆けて来る『死影』を見つめる字久は、それでも口元に微かな笑みを浮かべていた。